甘い魔法―先生とあたしの恋―


考えても、その理由なんてあたしには思いつかなくて、ふーっと軽いため息をついてから立ち上がる。

なんとなくそわそわとして落ち着かない気持ちに、そっとクローゼットを開けると、そこにはパソコンを叩く先生の姿があった。


あたしに気付いた先生が、パソコンからあたしへと視線を移す。


「……おまえから開けるって初めてだな。

つぅか、髪ちゃんと乾かさないと風邪引くぞ」


あたしの髪を見ながら、先生が小さく笑う。


22時10分。

先生はお風呂をまだ済ませてないみたいで、Yシャツのままだった。

先生の言葉に、濡れている毛先に気付いて、それを指に絡める。


「さっきまでドライヤーかけてたんだけど、今電話があったから……」

「へぇ。誰から? 友達か?」

「ううん。……お父さんから。三者面談に出られるって……」


先生は、一瞬真顔になって……それをすぐに優しい微笑みに変えた。


「へぇ、よかったな」

「うん……でもなんで急に出る気になったんだろ」


まだ納得できない事に首を捻るも、素直な嬉しさは表情ににじみ出ていたみたいで、そんなあたしを見て先生が笑う。


「どうでもいいだろ、理由なんて。嬉しいなら素直に喜んどけよ」

「……うん」

「言ったろ? 親だってちゃんと子供の事考えてんだって」

「……うん」


まるで見通していたような先生の笑み。

不思議に思いながらも、込み上げてくる嬉しさにあたしも頬を緩ませた。




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