甘い魔法―先生とあたしの恋―
4..別れ
矢野のキズ
「実姫、もう終わるから帰っていいよ。
ごめんね、係でもないのに付き合わせて」
顔の前で両手を合わせる諒子に、あたしは笑顔で首を振った。
掲示係の諒子が、担任からクラスの係一覧表を作るように言われたのはお昼休み。
本当なら男子の掲示係の加納が残るハズだったのに、部活がさぼれないとか言いだして。
特に用事もないあたしが代役を務める事になった。
「後はマーカー返しに行くだけ? 職員室に返せばいいんでしょ?
あたし行ってくるから諒子帰りなよ。帰ったらご飯作らなくちゃでしょ?」
教室の時計はもう18時20分を指していた。
いつもよりも1時間半以上遅い時間。
生徒が帰り終わった校舎には、廊下を歩く足音すら聞こえてこない。
「本当? ごめんね、なんか……。
っていうか、こんな時期にこんな事頼む島Tが悪いんだけど。
明日購買おごるよ」
「ありがと。じゃあ気を付けてね」
島田の愚痴を言う諒子と階段で別れて、マーカーを片手に職員室に向かう。
遠くから聞こえてくるのは、吹奏楽部が演奏するクラシック。
心地よく響く音色を聞きながら、軽く口ずさんで誰もいない渡り廊下を渡る。
沈もうとしている太陽を横目に、中校舎に入った時。
教頭の耳障りな声が聞こえてきた。
「何度も言ってますよね?」
声だけで不機嫌に歪まされた顔が見えるようで……。
なるべく関わりたくないと思ったあたしは、足音を消してこっそりと近づく。
そして壁に隠れながら、そぉっとその様子を伺った。