甘い魔法―先生とあたしの恋―
「自分の立場を分かってるんですか?」
職員室から少し離れた、資料室の前の廊下。
教頭に怪訝そうな視線を向けられる……、先生の姿があった。
……先生?
「生徒に慕われるのと、友達扱いされるのはまったく違います。
矢野先生がそんなだから生徒達が調子に乗るんです」
先生は、教頭の言葉を少し伏し目がちに聞いているだけで、何も言い返す様子はなかった。
下校時間を1時間半も過ぎている、生徒のほとんどいない校舎に、教頭の怒りを含ませた声が響く。
「授業だけきちんとすればいい訳じゃないんですよ?!
その髪も、生徒への接し方も、教師としてあるべき姿じゃありませんっ!
分かってますか?」
一方的に言われていた先生が、俯かせていた視線を教頭に移す。
そして。
「すみません。以後、改めます」
いつもより元気のない低い声で答えた。
いつもなら出さないような沈んでも聞こえる声に、あたしは先生の表情が気になって……だけど、次の教頭の発言に、視線は完全に教頭に向いた。
「施設なんかで育つと、やっぱり違うんですかね……」
「……―――っ」
大袈裟なため息と一緒に吐かれた差別ともとれる、度を越したイヤミ。
信じられない思いに教頭を見つめる先で、教頭はしかめた顔をそのままに職員室に向かって歩き出した。