甘い魔法―先生とあたしの恋―
「……市川?」
「……」
俯いたまま靴を見つめるあたしを、確認するように先生が呼ぶ。
それでも顔を上げずにいると、先生はしゃがんであたしの顔を覗き込んだ。
あたしの顔を見た先生の表情が、一瞬にして驚きに変わる。
「……何泣いてんだよ」
ビニール製の白い床に、あたしの涙がぽたぽたと落ちる。
床についた左右の手をぎゅっと握りしめながら、溢れる涙に震える声を出す。
「だって……悔しいっ……!
あんな言い方……、ひどいよ。教頭ムカつくっ……許せないっ」
泣きながら言うと、先生はそれを聞いて気まずそうに笑みを浮かべた。
「……聞いてたのか。カッコ悪ぃな」
そう笑った先生の顔が寂しそうで、
伏せられた瞳が、悲しそうで……
無理して必死に笑ってるように見えた。
いつも先生が張ってる予防線。
笑って誤魔化して、誰にも入り込ませないようにしている場所。
先生の、キズがある場所―――……
それが一瞬見えたような気がして……あたしは先生に手を伸ばす。
そして―――……
「おまえ、いてぇよ。つぅか、学校だから……」
そのまま先生に抱きつくと、先生は後ろにバランスを崩して座り込む形になった。
戸惑った様子の先生に、あたしは先生の首に回した腕にぎゅっと力を込めた。
先生をバカにされた事が悔しくて
何も言い返さない先生が悔しくて
無理に笑う先生が悔しくて……
涙が、止まらない。