甘い魔法―先生とあたしの恋―
確か、5月くらいから啓太は変わっていって……今は、「嬉しい」も「楽しい」も、感じない。
一緒にいる事が苦痛とは思わないけど……一緒に居ても、寂しい。
とっくに諦めたハズなのに、まだ心のどこかで啓太を想ってるから。
呆れながらも、いつかまた笑いかけてくれる気がして、どこかでそれを待ってるから。
……そんなの、あたしの都合のいい期待でしかない事は分かってるけど。
啓太は、あたしが嫌いになったのかな。
でも、そうじゃなきゃ……殴らないよね。
いくら啓太が変わったって……好きな子は殴らないでしょ?
じわじわと痛みが広がっていく。
左頬と、心に―――――……
じんわりと、でも確実に、痛みが広がってあたしを侵食していく。
寮について、うるさい階段を上る途中、寮に入ってきた矢野に気付いた。
階段を上がり始めた矢野に、耳に掛けていた髪を下ろす。
鎖骨の辺りまで伸びた髪は、あたしの頬を隠すようにパラパラと流れ落ちた。
部屋の前でカバンの中から鍵を探していた時、追いついた矢野に声を掛けられた。
「今日デートだろ? もう帰り?」
「……関係ないじゃん」
振り向かないまま答えると、なんだか突き放すような言い方になってしまって……小さく罪悪感が浮かび上がる。
だって……仕方ないじゃん。
こんなの知られたら、まずいもん。
仮にも教師だし、知られて家に連絡でもられたら嫌だし……。
落としていた視線が、やっと鍵を見つける。
それを鍵穴に差し込んだ時、矢野が懲りずに話しかけてきた。