甘い魔法―先生とあたしの恋―
「清水……おまえ、こんなとこで俺にケンカ売る前に、市川に告白すれば?
こんなん、おまえらしくねぇだろ。
困った奴を放っとけなくて、素直で、曲がった事とかズルい事が嫌いで。
どうしょうもないいい奴だって、よく市川が言ってる。
今だって、もう後悔し始めてるくせに、慣れねぇ事すんな」
俺の言葉に、清水は表情を歪めて俺に背中を向けた。
「……本気で言った訳ないじゃん。
カマかけただけだし」
「……あっそ。じゃあ乗らなくてよかった」
「俺も……矢野センが引っ掛からなくてよかった。
一生後悔するとこだった」
素直に心情を白状する清水に、身体の奥が鈍く痛み出す。
清水の中にあるギリギリの葛藤。
『別れないとバラす』
そんな思いが浮かんできて、どんどんでかくなっていって……。
それが、卑怯だと自分で分かりながらも止める事ができなかった。
……市川が好きだから。
大切だから……教師の俺になんかに、預けておけなくて。
それを止めるのは、元からある正義感。
それと……、そんな脅しをかけられた俺への同情。
別に俺になんか同情する事ねぇのに。
きれいな正義感を持つ清水には……、きっと耐えられなかったんだろ。
『……教師が生徒に手出すとか……、やばいんじゃねぇの?
俺がバラしたら……矢野セン、クビだって分かってる?』
その問いに俺が答えるまでの間、清水は一度も俺を見なかった。
つらそうに歪めた目で、必死に俺から視線を外してた。
……本当、いい奴だな。