甘い魔法―先生とあたしの恋―
「聞かない。……実姫を傷つけたり、不安にさせるつもりはないし」
「……そうだよな。悪い、変な事聞いて」
清水は笑顔を俺に向けた後、「俺の方こそ変な事言ってごめん」と軽く謝ってからグランドへと戻った。
潔い清水の後ろ姿に、憂鬱な気持ちが俺を襲う。
「正義感か……」
俺の中にあった正義感は……どこに行ったんだろ。
それなりのモノを持ち合わせていたハズなのに。
それは、どこかに埋もれたまま顔を出そうとはしなかった。
あんなにも清々しい清水相手に、それは疼くだけで出てこようとはしなかった。
自分の正義感を隠してでも、守りたいモノがあったから。
守りたい関係があるから……。
それを守る為なら、正義感なんか―――……
それでも、胸の奥底で鈍く、でも強く痛む部分。
そこに埋もれている感情に、小さく息を吐き出して苦笑いを零した。
「正義っていてぇ……」
わざと茶化すように言ってみても、それは痛む感情を前に意味を為さなかった。
大切なモノを守るためなら、隠して無くそうとした正義感。
それが、清水の後ろ姿にじくじくと痛む。
結局、捨てきれない感情に、その痛みに耐えるしか出来なかった。