甘い魔法―先生とあたしの恋―
「実姫っ」
放課後、グランド脇を抜けて寮に帰ろうとしていたあたしを、和馬の声が止めた。
振り返ると、ジャージ姿の和馬が走り寄ってくるところだった。
グランドでは、サッカー部を始め、野球部やテニス部の練習が行われていて、活気溢れるかけ声が響き渡っていた。
「なに?」
息を切らせる事なく、あたしまで追いついた和馬に聞く。
サッカー部員で揃えた青いジャージは、やけに鮮やかで目を引く。
見るからに爽やか少年って感じの和馬にはよく似合ってるけど。
「ちょっと話があるんだ。寮行っても平気?」
「? ……うん」
寮を指差しながらの和馬の言葉に、不思議に思いながら頷く。
そして、あたしの返事を聞くなりスタスタと歩き始めてしまった和馬の後を追った。
小さい頃から見てきた背中は、今は大きくて、いつの間にか「男」になった和馬を実感させられる。
だけど、なんとなくそんな和馬は見たくなくて……。
大人になったって、和馬が変わる訳じゃない事くらい分かってはいるけど……その変化を、あまり見たくなかった。
空を見上げると、明るいオレンジ色の太陽がまだ雲を照らしていた。
小さい頃、和馬と手を繋ぎながら家に帰った事を思い出して笑いそうになったけど……和馬の背中からいつもとは違う雰囲気を感じて、口を閉じた。