甘い魔法―先生とあたしの恋―


気まずい沈黙を和馬の言葉が破ったのは、寮の食堂に入った時だった。


「俺、実姫が好きだ」


寮に入るなりいきなり言った和馬に、あたしは言葉を失った。


あまりに唐突すぎる言葉。

冗談かとも思ったけど、まっすぐに見つめてくる和馬に、そんな可能性は薄れていく。


「……本気で言ってる?」

「本気で言ってる」

「……そっか」


予想もしてなかった和馬の告白に、あたしはゆっくりと顔を俯かせる。


和馬にどんな顔を見せればいいのか分からなくて……。

大体、好きっていつから? とか、あたしのどこが? とか……そんな疑問ばかりが頭に浮かぶ。


何か答えなくちゃと思うのに、先生の事は言えないって考えがそれを止める。


だけど、こんな時まで嘘で誤魔化すのは嫌で……ただひたすらに黙って考えていた時、和馬が再び口を開いた。


「ごめん、困らせて。……分かってるんだ。

実姫が誰を好きかって事くらい……でも、どうしてももう限界でさ」


和馬の言葉に顔を上げたあたしに、和馬は困り顔で笑う。

そして、驚いた表情を浮かべたままでいるあたしに……微笑んだ。


「前言ってた、実姫の好きな奴……矢野センだろ?」

「……―――っ」


一瞬、身体が竦んで……

そのまま時間が止まったように感じた。


ドクン、と大きく鳴った心臓すら、そのまま止まったように感じた。




< 295 / 455 >

この作品をシェア

pagetop