甘い魔法―先生とあたしの恋―
「はい。市川です。今日からよろしくお願いします」
「あたしは食事を作って持ってくるだけで管理人じゃないのよー」
「え……」
頭を下げると、そんな事を言われてしまって。
「じゃあ管理人さんは……」
「管理人さんっていうか……まぁ、管理人さんなのかな」
おばさんはぶつぶつ言いながら1人で首を捻る。
そして、にこっと笑うと2階を指差した。
「とりあえず、2階の201号室に挨拶に行ってね。
そこに管理人さん代わりの人がいるから。
あ、市川さんの部屋は202ね。……って、言っても部屋2つだけだから他に住めるとこなんかないけどねー」
明るく笑うおばさんには悪気はないんだけど……。
部屋が2つって……何?
2つなのに、寮?
……ありえない。
寮のあまりにシケた内容に、あたしはケラケラと笑うおばさんに苦笑いを返すのがやっとだった。
ミシミシと、予想通りの音を立てる階段に、もう顔をしかめたりはしなかった。
……なんか疲れちゃってそんなのどうでもよかった。