甘い魔法―先生とあたしの恋―


楽しそうに話す男子生徒に、和馬は驚いた視線をあたしに向けた。


それに耐えられず、あたしは和馬から目を逸らした。


本当は顔ごと和馬から逸らしたかったけど、クラス中の視線が集まる今そんな事をしたら、本当にそれがあたしだったって肯定してしまう気がして……。


あたしは俯くことも出来ないまま精一杯、平然を装う。


否定するにも、何を言っても今のあたしが言う事はどこか疑いが掛けられてしまう気がして、言葉が出ない。


どうしようっていう緊張を後押しする、和馬への罪悪感……。


和馬はきっと……、

その噂が本当だって確信してる―――……



余計に言葉が出なくなったあたしを少し見た後、和馬はぷっと吹き出して笑い出した。


「なんだ、それ。冗談じゃねぇんだけど」

「だよなー。もし市川だったら清水二股かけられてたって事だもんなー」

「つぅか、実姫じゃねぇし。実姫は俺と付き合ってるんだから矢野センとどうにかなる訳ねぇじゃん。

自分で言うのもおかしいけど、すっげぇ上手くいってるし」

「人のクラス来てまでノロケるなよ」

「いい加減な噂流すおまえらが悪いんだろ?

そんな噂流されて、実姫が二股かけるような女だって思われたらすっげぇ嫌なんだけど」

「……どんだけノロケるんだよ、清水」


苦笑いする男子生徒に、和馬が明るい笑顔を向ける。


そんな和馬に言葉を掛けようとして……でも、それを和馬の微笑みが止める。


何も言うなって言われてるみたいな和馬の優しい目に……

あたしはまた視線を逸らす。


「じゃあ俺、戻る。実姫の顔見に来ただけだし」


和馬の言葉に、クラス中から呆れに近いため息が漏れた。



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