甘い魔法―先生とあたしの恋―


「あ、実姫泣いてるっ」

「え、もしかしてあたし達が騒いだせい……?」

「やだ、ごめんね? ふざけただけで、全然本気じゃないからね……?」

「泣かないでよー……」


勘違いした女子からかけられる言葉に、あたしは涙を流しながら笑った。


心の中で

何度も和馬に謝った。


何度も何度も……。


想像の中でさえ笑顔を向けてくる和馬に、胸が締め付けられてまた涙が零れそうになった。






5時間目開始のチャイムが鳴って、少ししてから先生が教室に入ってきた。


「矢野セン、相手誰?!」


先生が姿を見せるなり、男子生徒からそんな言葉が飛んで……、先生は面倒くさそうに教科書を開く。


「おまえらには関係ないだろ」


普段よりも少しきつめの口調に、男子生徒は黙って……代わりに女子が口を開く。


「さっきまでね、相手は実姫じゃないかって話になってたんだよ」

「へぇ。……実姫って……ああ、市川か」


生徒からそんな言葉が飛んでくる事を予想していたのか、先生はあたしの名前が出ても動揺なんか見せなかった。


先生の態度に感心しながら、あたしは視線を落とす。


「でも、実姫は隣のクラスの清水とラブラブだからねー。

さっきだってうざいくらい仲良くやってたし……あー、あたしも彼氏欲しいっ。

っていうか、矢野セン、あたしも抱き締めてよー」


女子生徒の言葉に、一瞬先生の視線があたしに向けられた。

それに気付いて顔を上げてしまうと、先生と目が合って……でも、あたしが逸らす前に、先生が顔を背ける。






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