甘い魔法―先生とあたしの恋―


「バカな事言ってないで始めるからな」


教師の顔に戻った先生が、チョークを取り出して黒板に白いラインを引き始める。


いつもならキレイな数字が……少しだけ、歪んで見えた。

先生の指が描く数字を見つめながら、あたしはさっきの事に思考を飛ばしていた。



和馬の事に、先生の事。


和馬はああ言ってくれたけど、やっぱりそれに素直に甘えるには抵抗がある。

それに……甘えちゃいけないと思う。

和馬が悩んで出してくれた答えだったとしても、それを受け取っちゃいけない。

そんな残酷な事、させられない。


でも、じゃあ何て断るの……?

『悪いから』なんて理由じゃ、和馬は絶対に納得してくれない。


遠慮すんなって言い切られて……

俺の事信用できない? なんて、言われて……、そのまま―――……


先生の事だって……

もっと気をつけなくちゃダメだ。


もっともっと、あたしがちゃんとしなくちゃ。



じゃなきゃ、

先生との恋は守れない―――……







to.矢野
sub.
―――――――――――

疑ってなんかないから
大丈夫だよ。

噂の事は和馬が
上手くごまかしてくれたよ。


先生、ごめんね。
本当にごめんなさい。

―――――――――――



掃除の時間に、先生にメールを返した。


5時間目から考えている事には結局答えを出せなくて……あたしはふぅっと軽いため息をつく。


ガタガタと机を運ぶ音だとか、廊下を走る足音が響く中、クラスに駆け込んできた女子が言った言葉に、あたしは敏感に反応して振り返った。






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