甘い魔法―先生とあたしの恋―


「矢野セン、教頭に呼び出されてたよっ」

「……―――」


数人に向かって話す女子に、他の生徒も群がり始める。


「あたし、職員室前の廊下掃除だったから盗み聞きしちゃったんだけどね。

矢野セン、告白してきた生徒を断ったら泣きつかれたんだって!

教頭にそう説明してた」

「へー、やっぱり矢野センってモテるんだね」

「いいなぁ……俺も泣きつかれてみてぇ」

「ありえないしー」


そんな会話が、掃除中の埃っぽい教室に飛び交う。

しばらくその話題で盛り上がった後、廊下を通りかかった先生に注意されて、自分の担当場所に戻っていった。


そして、教室にまた騒がしい音が響く。

黒板消しのクリーナーの音や、吹き付けてくる風にカーテンがはためく音。

廊下を通る生徒達の笑い声……。


たくさんの音が、あたしの耳を通り抜けていく。




『教頭に呼び出されてたよっ』



あたしのせいだ。

あたしの……



あたしが、あんな事したから……、

だから、先生が……



……きっと、またイヤミを言われてる。

教頭に、また……責められてる。



あたしが抱きついたから―――……

あたしが、上手く誤魔化せないから―――……





全部あたしのせいだ。






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