甘い魔法―先生とあたしの恋―
その日の夜、先生は、待っていたあたしの顔を見るなり、笑い出した。
「なに、その顔」
「……なにが?」
「泣き出しそうな顔してる。誰かにいじめられたか?」
思わず両手で自分の顔を隠したあたしを、先生が明るく笑って覗き込む。
その理由を分かってる先生は、きっとわざとはぐらかしてる。
顔を隠してむっとしてるあたしに少し笑うと、先生はあたしの頭をぽんと撫でながらすれ違って冷蔵庫を開ける。
そして、取り出したウーロン茶を2つのコップに注いだ。
「市川も飲むだろ?」
「え……あ、うん。っていうかそれあたしのだし」
「あー……そうだったっけ」
「そうだよ。……先生、そんな事より……」
「ん?」
「教頭に、何言われたの……?」
あたしから切り出した話題に、先生はふっと笑って椅子に座る。
先生は用意された夕食に視線を落としながら、少しだけ笑みを浮かべた。
「『生徒に告白される教師がどこにいるんですかっ』ってさ。
『普段の態度が悪いから生徒に恋愛感情なんて持たれるんですっ』とか、なんかギャーギャー言ってたな。
早く移動にでもなればいいのにな」
明るい笑う先生の笑顔が、嘘に見えた。
わざとに見えた。
あたしを安心させる為に笑ってるように思えて……
罪悪感とも悲しみとも取れるような感情が、あたしの中で膨れ上がる。