甘い魔法―先生とあたしの恋―


その日の夜、先生は、待っていたあたしの顔を見るなり、笑い出した。


「なに、その顔」

「……なにが?」

「泣き出しそうな顔してる。誰かにいじめられたか?」


思わず両手で自分の顔を隠したあたしを、先生が明るく笑って覗き込む。

その理由を分かってる先生は、きっとわざとはぐらかしてる。


顔を隠してむっとしてるあたしに少し笑うと、先生はあたしの頭をぽんと撫でながらすれ違って冷蔵庫を開ける。

そして、取り出したウーロン茶を2つのコップに注いだ。


「市川も飲むだろ?」

「え……あ、うん。っていうかそれあたしのだし」

「あー……そうだったっけ」

「そうだよ。……先生、そんな事より……」

「ん?」

「教頭に、何言われたの……?」


あたしから切り出した話題に、先生はふっと笑って椅子に座る。

先生は用意された夕食に視線を落としながら、少しだけ笑みを浮かべた。


「『生徒に告白される教師がどこにいるんですかっ』ってさ。

『普段の態度が悪いから生徒に恋愛感情なんて持たれるんですっ』とか、なんかギャーギャー言ってたな。

早く移動にでもなればいいのにな」


明るい笑う先生の笑顔が、嘘に見えた。

わざとに見えた。

あたしを安心させる為に笑ってるように思えて……

罪悪感とも悲しみとも取れるような感情が、あたしの中で膨れ上がる。




< 309 / 455 >

この作品をシェア

pagetop