甘い魔法―先生とあたしの恋―
軽い音のノックに、顔をしかめながらクローゼットを開ける。
するとそこには、昨日と同じようにパソコンを広げる矢野の姿があった。
でも、1つだけ昨日と違うのは……暗いクローゼットの中を照らすライト。
「……何これ」
「いいだろ。今日昼過ぎにつけたんだ。ラック代浮いたからさ」
「……これ見せたくて呼んだの?」
クローゼットの上段が、完全に共同スペースと化していて。
自慢げに笑う矢野に、あたしは小さくため息を落とした。
だけど、矢野は急に真面目な顔をして……。
「これ貼っとけ」
それだけ言って、あたしのすぐ前にシップの箱を投げた。
封の切られていない箱に視線を落として黙っていると、矢野が続ける。
「2日後には始業式だから。
俺みたいに見逃してくれる教師ばっかじゃねぇし……それまでに何とかしろ。
理由、聞かれたくないんだろ?」
「……」
矢野の言葉に……さっき収まったハズの涙がじわりと浮かび上がる。
それを誤魔化そうと、あたしは尖らせた口から言葉を返す。
「……やだ。シップとか臭いし」
「おまえなぁ……俺がせっかく買ってきてやったのに」
矢野が苦笑いして立ち上がりながら言った言葉に、あたしは驚いて口を閉じる。
さっき一瞬出かけてたのって、もしかしてこれ買うため……?
まさか……、そんな思いにシップの箱を見つめていると、部屋に消えていた矢野が再びパソコンの前に座った。