甘い魔法―先生とあたしの恋―
初めて先生の笑顔が目を引いたのは、数学の話をしてる時だった。
『数学って答えがはっきり出るし、誰から見ても明確で平等でいいだろ』
そう言って笑ってる時。
いつもは飄々としていてクールな先生が、子供みたいな笑顔で笑ってた。
その時、本当に数学が好きなんだって分かった。
新聞に数学関連の記事が載ってると、キラキラした目で読むのも知ってる。
『すげぇなー』なんて独り言漏らしたりして、
それに反応したあたしが見つめていたら、先生は『あれ、声に出てたか』なんて笑ってた。
授業中、生徒から質問が出ると嬉しそうな顔するのも知ってる。
一生懸命に答えて……
みんなが分かった時、満足そうに笑うのも知ってるよ。
クールぶってても、数学の事になると夢中になる先生を……、知ってるんだよ。
……先生を見てたから。
知ってる。
お母さんに捨てられて、
嘘に臆病になった先生が、やっと見つけた数学の仕事なのに……。
施設で育ったって事で色々言われても、頑張ってきたのに……
悪くないのに頭下げて我慢してたのに……
もしもバレたら……
先生は数学を失うかもしれない―――……
あたしの存在が、先生からすべてを奪うんだ。
あの、キラキラした顔も
無邪気な笑顔も……
あたしが
先生から奪うんだ―――……