甘い魔法―先生とあたしの恋―
苦しく軋む胸を押さえながら、先生から目を離してドアから離れる。
そして、数学学習室の壁に背中をつけた。
いつも寮で一緒にいるのに、先生とのこの距離が嬉しかった。
壁の向こうに先生がいる。
たったそれだけで、さっきまでのどうにかなりそうな不安が、少し消えていく。
『でも告白してきた生徒にも困りますよね。いい迷惑ですね』
『いや……悪いのは僕ですから。
……あの生徒のせいじゃないですよ』
「……―――」
先生が言った言葉に……、あたしは唇を噛み締める。
それでも耐えきれずに溢れた涙が頬を伝って、床に落ちた。
「……なに、『僕』って」
そんな独り言を言って笑おうとしたのに……、失敗した。
どんどんぼやけていく視界に俯くと、たまっていた涙がぽたぽたと白い床に落ちていく。
あたしを庇う先生に、悔しさにも似た感情が膨らんで胸を痛ませた。
なんで……?
なんで庇うの?
悪いのはあたしじゃん……。
あの時、先生は『学校だから』って……
そう言ったのに。
悪いのは、離れなかったあたしじゃん……。
先生は、少しも悪くない。
カッコつけないでよ。
カッコつけて、あたしなんか庇わないでよ……っ。
ばか。
……先生のばか。