甘い魔法―先生とあたしの恋―
「なんですか? 話って」
放課後の教室に、吉岡さんの迷惑そうな声が小さく響いた。
歪めた表情を向ける吉岡さんに視線を向けられながら、あたしはその視線に答えるようにじっと見返した。
「あたし、和馬とは付き合ってないよ」
呼び出したのはあたし。
和馬の事と……、先生の事。
どうしても伝えたい事があったから。
「ちゃんと言えば……、ちょっと事情があって付き合ってる振りをしてもらってた」
「事情って……矢野先生の事ですか?」
吉岡さんの口から出た先生の名前に、ゆっくりと頷いた。
お昼休みの会話がハッタリなんかじゃない事は分かってた。
だから、先生の名前を言われたって動揺なんかしないつもりだったけど……。
それでも一瞬心臓が跳ねてしまう。
それを感じて、やっぱりあたしは隠し事なんてできるタイプじゃないんだって事を痛感してしまう。
「和馬の事、傷つけてないなんて言えない。
きっと……、いっぱい傷つけた。
だけど、もう和馬の優しさに甘えるのはやめる。
だから……」
続きを言おうとして……、あたしの声が止まる。
言葉にして気付く、自分勝手すぎる希望。
今まで散々和馬に救われてきたくせに。
和馬の笑顔に助けられてきたくせに。
断らなくちゃいけない事に気付きながらも、言葉には出来なくて甘え続けてきたくせに……。
それを、初めて言葉にする理由が、先生を守るためだなんて……
誰が聞いたって、……あたしだって、呆れる。