甘い魔法―先生とあたしの恋―
「おかえり」
19時過ぎに寮に帰ったあたしを、先生の声が迎え入れた。
いつもよりも早い帰宅に、少し驚きながら返事をする。
「あれ……早かったね」
「ああ。今日の朝、島田先生の当番代わっただろ?
だから夕方の見回り代わってもらったんだ」
「そうなんだ……」
「で? おまえはこんな時間まで何してたんだよ」
心配からなのか、少し疑っているように見える先生から、あたしはさりげなく視線を逸らす。
そして、沈み切っていた気持ちを無理矢理上げるように笑みを作った。
「諒子とぶらぶらしてたんだ。駅前とか……」
先生にバレないように笑顔を向けると、作り笑いのせいで頬の辺りに違和感が残った。
本当は……
なんとなく帰る気にならなくて。
寮に帰ってきたら、出てしまった答えを認めなくちゃならないから。
……帰れなかった。
毎日先生と過ごしている寮になんか帰ってきたら、
あたしはきっと先生を想って泣いちゃう気がしたから。
しなくちゃいけない事は分かってるのに、それを認めるのは無理で……。
でも、分かってるからこそ、涙が出て……。
堂々巡りをする思考に決着がつけられなくて、帰ってこられなかった。
「ふぅん? でもあんまり遅くまで出歩くなよ? 危ねぇから」
真面目な顔をしてそう言う先生に、あたしはふっと笑みを零す。
同時に感じた涙腺の緩みに、慌てて口を開く。