甘い魔法―先生とあたしの恋―
夢なら…
いつもとは違う、真剣な顔をした先生から、あたしは目を逸らす。
「……疑われてるから来ないって言ったのに」
「今のメールどういう意味? 俺、こういう冗談好きじゃないんだけど」
怖いくらい真剣な先生の声。
その声が鼓膜に張り付いて、まるであたしを責めてるみたいだった。
『後でかまってやるから』
『おまえだけだし』
いつもなら、そんなドキドキさせるような甘い言葉を言う声。
『素直じゃねぇな』
『お仕置きだな』
そんな、からかうように笑う声。
その声が、今は怒っていて。
思わず胸が締め付けられて、瞼が熱くなる。
……違うって、言いたくなる。
余韻の残り続ける先生の声を振り落とすように、勢いよく顔を上げた。
そして、先生を見つめる。
先生の眼鏡に気付いて、思いだした事に、あたしは先生の眼鏡を指差した。
「……先生、眼鏡外して」
「……なんで?」
「……なんでも」
最後に、先生の素顔を見たいなんて……、きっとどうかしてる。
こんな時まで独り占めしたいなんて、どうかしてる。
だけど、もうこのクローゼットを開ける事はないから。
先生の素顔に会う事は、もう―――……
浮かんでくるのは、クローゼット越しに交わした会話。
パソコンの液晶画面に照らされた、先生の笑顔……。
先生の事なら、どんな小さな事でも思い出せる自信がある自分に、今更気付いて。
今更過ぎる事に悲しくて笑みが零れる。
先生は少し眉を潜めながらも眼鏡を外して、Yシャツの胸ポケットに入れる。
眼鏡を外した先生を、教師ってレンズを外した恋人の先生をじっと見つめてから、あたしは意を決して重い口を開く。
今ならまだやめられる。
……そんな事を思いながら。