甘い魔法―先生とあたしの恋―
「実姫……家に帰ってくるか?」
「……――――」
お父さんの言葉に、あたしは声を発せずにただその横顔を見つめていた。
地面に、二人の影が揺れる。
空を渡る飛行機の音が、静かな校庭に響き渡っていた。
返事をできずにいるあたしに、お父さんが視線を移す。
「……泥棒が入ってから、実姫を一人きりにしておくのが心配で寮に入れたけど……
実姫が変に誤解してるって矢野先生に聞いて……。
言っておくが、決して実姫が邪魔になったとか、そういう理由で寮に入れた訳じゃないんだ。
だから……いつ帰ってきてもいいんだからな……?
実姫の家なんだから……」
「……」
「……帰ってくるか?」
ずっと……
お父さんは、あたしの事を面倒だって感じてると思ってた。
邪魔で、面倒くさいって……
ずっと、そう思ってた。
だから、思いがけなかった言葉をかけられて、なんて答えればいいのか、分からなかった。