甘い魔法―先生とあたしの恋―
「彼氏は、矢野センだろ?
俺、少し前に実姫に言われたんだ。
一人で頑張るから、少し放っといてくれって。
大丈夫だからって……でも、全然大丈夫そうな顔じゃなかった。
実姫はうまく誤魔化してるつもりだろうけど……あんな顔、見てられない」
清水が向けてくる真剣な表情と言葉に、俺は新聞に落としたままの視線を歪ませる。
自然としかめられた目元を隠すように、片手で頭を抱えた。
やっぱり嘘か……。
苦笑いよりもつらい笑みが、逃がせずに喉の辺りから胸へと押し込まれる。
痛いばかりのそれは、
鉛のように重くなって胸の中に沈んだ。
本当は……ずっとそうじゃないかって思ってた。
別れを切り出した市川の表情は、見てられないくらいにつらそうだったから……。
泣いてたことも
震えてた肩も
必死に誤魔化そうとしてた、少し掠れた声も
市川がついた、一生懸命な嘘にも……。
本当は、気付いてた。