甘い魔法―先生とあたしの恋―
じくじくと痛む胸に、ふぅっと息を吐いてから、立ち上がってクローゼットに手を掛けた。
相変わらず、ギィっと嫌な音を立てて開いたクローゼット。
だけど、それも今日が最後だと思えば……、哀愁のある音に聞こえてくる。
開けた途端に部屋に入り込んできた先生の香りに気付いて、目の奥が刺激される。
ドキドキさせるばかりだった先生の香水は、いつの間にか落ち着く香りに変わってた。
どんな香りよりも、大好きな香りに……。
熱くなる瞼を感じながら、クローゼットの中からチェストを取り出す。
もう、このクローゼットを開ける事のないように。
いつもの場所にある先生のパソコンの上には、眼鏡が置かれていて。
その向こうには先生のきれいな部屋が見える。
一度くらい、入ってみたかったな……
不意に浮かんできてしまった悲しい気持ち。
それを断ち切るように、クローゼットを閉めた。
狭い部屋に無理矢理チェストを置く。
一気に狭くなったスペース。
「……いいじゃん。すぐ手が届くし」
強がりの独り言を漏らしながら、狭い部屋にしゃがみ込む。
夏休み目前の蒸し暑い空気が、身体に張り付くようで気持ちが悪い。
暑さと狭さの強調される部屋で、あたしは膝に顔を埋めて唇を噛みしめた。