甘い魔法―先生とあたしの恋―
先生に背中を向けて走り出す。
間違って、先生の前で泣きだす前に。
間違って、先生に抱きついてしまう前に。
間違って、『まだ好き』なんて、そんな言葉を言ってしまう前に……。
早く、先生から離れたかった。
もう、引き返せない距離まで。
だけど、
どんなに走っても、
どんなに離れても、
頭の中はさっきの先生の笑顔が支配し続けていて。
涙がこぼれそうになるのを、必死に我慢して走った。
一度止まってしまえば、きっと寮に戻ってしまうから。
……立ち止まるなんて、出来なかった。
「……そこまで急いでこなくてもよかったのに」
駅の噴水前で息を切らせたあたしに、諒子が驚いた表情を向けた。
結局かなりの距離を走ってきて、駅前についた時には、おでこに汗が滲んでいた。
息を切らせたままベンチに座り込んだあたしのおでこに、諒子がタオルを当てる。
「ありがと……?」
お礼を言おうとしたあたしを止めたのは……その後、顔に押し付けられたファンデ。
そして、手首にワンプッシュされた香水。
「ほら、自分で塗って」
「え、っていうか、なに?」
香水を両手首に広げて、耳の辺りに広げながら聞くと、諒子はにっこりと笑い掛けた。