甘い魔法―先生とあたしの恋―
始業式が行われる体育館へと移動したあたし達を迎えたのは、広い体育館に敷き詰められたパイプ椅子。
「いつも用意してくれればいいのにね。ってか、校長とかの挨拶が長いって言ってるようなもんだし」
「始業式の後って入学式でしょ? だからついでにって事じゃない?」
「ああ、それだ。絶対それ。……新入生なんて甘やかす必要ないのに。むしろしごいた方がいいのにー」
「……怖いんですけど。またヤンキーだの不良だのって噂されるよ?」
諒子と笑い合いながら、出席番号順に椅子に座る。
去年は1番だったけど、今年は3番。
何かと目立つ1番から脱出できた事が嬉しい。
『えー……』
まだざわつく中、教頭の声がマイクを通して体育館に響いた。
その声に、生徒の視線が一斉に壇上へと向けられる。
入学式の為か、いくつもの大きな花束が壇上を彩っている。
……それは邪魔なんじゃないかと思うほど。
その中にいるのは、マイクを握った、いつも以上に念入りにメイクした様子の教頭と、数人の先生。
色鮮やかな花の中にいると、もともと地味な色のスーツが余計にそう見える。
『じゃあ、今年から赴任になりました先生方、マイクを回しますので一人ずつ自己紹介をお願いします』
花に囲まれた先生達が順番にマイクを回し自己紹介を始める。
8人いる先生達を何気なく眺めていた時……その中に混ざる矢野の姿に気付いた。
『矢野ハルキです。数学担当になります』
たったそれだけ言っただけなのに。
他の先生の方がもっと気の利いた事言ってたのに。
なのに。