甘い魔法―先生とあたしの恋―
「『お兄ちゃん』なんて……、実姫の前でだけそんな風に呼んで、自分に言い聞かせてるつもりだった。
好きになっちゃダメだって……。
でも……肝心の要くんの前では、一度もそんな風に呼べなかった。
そんな呼び方したら……、要くんが遠くなっちゃう気がして、怖くて……」
視線を固定したまま、悲しそうに表情を歪める諒子に、あたしの胸が堪らず締め付けられる。
自分にも当てはまる想いだからこそ、余計に痛い。
「あたし、実姫と矢野センに、自分の想いを重ねてたの。
理想だったから。
だから……、本当は、ずっと実姫がおかしかった事に気付いてたのに、矢野センと何かあったなんて聞きたくなくて……
認めたくなくて……、わざと聞かなかった。
実姫達が上手くいかないなら、あたしなんかもっとダメな気がして……。
本当の事、聞けなかったの」
電車が着いたのか、駅からたくさんの人達が溢れ出し始める。
駅中心にして様々な方向へ散らばっていく人達を横目に、諒子が続ける。
「実姫がつらい状況なのに気付いてたのに、あたし、自分の事ばかりで……。
そんな自分が嫌で、実姫を合コンなんか誘ったりして。
実姫がまだ矢野センを想ってる事くらい分かってるのに……。
励ましたいのに、こんな方法しか思いつかなくて……。
本当にバカで嫌になっちゃう」
諒子の口から、自分自身へのため息が漏れる。
そして、うっすらと浮かべた涙で揺れる瞳を、あたしに向けた。