甘い魔法―先生とあたしの恋―


予約した個室には10人程度の若い教師が集まっていて、割と盛り上がっている。

この様子だと、まだしばらくは終わらない事が分かって……また自然とため息が漏れた。


適当な理由でも作って帰ろうかと考えていた時、馬場先生が俺の顔色をうかがうように話し掛けてきた。


「あの……、前から気になってたんですけど、矢野先生って彼女いるんですか?

その指輪って、ペアリングとか……?」

「いや。……彼女じゃないんですけどね。

外すなって言われてまして……」


左手の指輪に視線を落とすと、いつかの市川との約束が思い起こされた。


『本当に彼女ができたんだから外しちゃダメ』

教職につくまでは、指輪なんかした事がなかった。

だから、事あるごとに違和感を感じる指輪は、正直邪魔に感じていた。


常に違和感が残る指。

だけど、違和感を感じる度に、市川との約束が頭をよぎる。


別れた今は、そんな約束はもう無効のハズなのに……

どうしても外せなかった。


市川は……

もう、吹っ切れたんかな……。


今朝の笑顔は、それを伝えたかったって事か……?


思い出される市川の笑顔に、眉を潜めて目を伏せた。




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