甘い魔法―先生とあたしの恋―
別に矢野がモテそうな事なんて分かってたけど。
女子生徒の騒ぐ声とか、矢野に向けられる熱い視線なんかどうでもいいけど。
なんとなく、本当になんとなく気に入らなくて。
あたしは俯いたまま、大きく息を吐き出した。
新任の挨拶の後、OBやらPTAやらの似たような内容の挨拶が続く。
『私が高校生だった時は……』とか正直心からどうでもいい話が、延々と……。
せっかく用意されていた椅子も、今となってはお尻を痛めるだめのものと化していた。
まだ、矢野に向けられるひそひそ声が聞こえる中……ゆっくりと視線を上げて矢野を映す。
普段は目立たない程度の茶髪も、他の先生の黒髪の中ではかなり浮いていた。
寮にいる時は、白いシャツとかロンTとかに緩めのジーンズなのに、今日は暗めのグレイのスーツ。
首元にはワインレッドのネクタイ。
……似合ってるのが、なんか癪(しゃく)に触るけど。
高い身長も、矢野の魅力を後押ししてる気がする。
……でも、あの地味な茶髪は絶対口うるさい教頭に注意されるだろうな。
ってか、教師で茶髪とかってありえないし。
そんな事を思いながら矢野を眺めていた時、後から肩をつつかれた。