甘い魔法―先生とあたしの恋―
昨日、あんな服着て市川がどこに出かけたのか。
誰と会ったのか。
誰かと会ったから……今朝、あんな風に笑えたのか。
そればかりが頭を支配して、解放しない。
注がれたビールを喉に流し込むと、焼けたように喉から胸にかけてが熱を持つ。
だけど、本当に流そうとした想いは、そのまま俺の頭に残ったままだった。
今朝の何かをふっ切ったような市川の笑顔も
昨日の、誰かのために着たワンピースも……
市川の気持ちが、俺から離れた事を表しているような気がして、イライラとも、むしゃくしゃとも違う感情が俺を苛立たせる。
別れが、最善の道だった事は分かってんのに……
俺が市川に固執したままじゃダメだって、思ってんのに……
気持が、まったく付いていこうとしない。
呆れるくらいに……
「じゃあ、彼女はいないって事ですよね……?
あの、私もいないんです……」
隣から注がれる視線に気付いて、半分ぼやける視線で馬場先生を振り向く。
じっと、潤んだ目で見つめてくる馬場先生を、ぼんやりした頭のまま眺めていた。
肩より少し長い髪。
少しだけ強気に見える二重の目。
目が自然と反応するのは……、馬場先生と市川の共通するパーツ部分。
似た部分を見つけては、そこに市川を重ねていた。