甘い魔法―先生とあたしの恋―
家になんか帰ったって、結局眠れなくて。
翌日の朝早く寮に戻った。
もしかしたら、まだ馬場先生が……、
なんて、そんな考えが一瞬頭を過ぎったけど……
唇を噛み締めて、寮のドアをそっと開けた。
ギシギシ煩い階段をゆっくりと上がりきった時。
ちょうど部屋から出てきた先生と鉢合わせになって、身体がびくっと竦む。
「……よう。外泊か?」
少し気まずそうに笑う先生から、視線を逸らす。
先生の顔を見た途端、昨日の映像が頭に呼び起こされてしまって……苦しくて、見ていられなかった。
先生のぬくもりが、
先生の言葉が、
あたしの為のものじゃなかった事が、悲しくて、苦しくて―――……
「……どこ行ってたんだよ」
「……実家。だって……先生、昨日……」
「市川。……俺、昨日さ、酔っておまえの事……」
「大丈夫っ……分かってる。
……間違えたんでしょ? あたしと馬場先生を……」
先生の言葉を聞き終わる前に、それを遮った。
……聞きたくなかった。
先生の口から、『間違えた』なんて……、絶対に聞きたくなかった。
例え、それが事実だとしても。