甘い魔法―先生とあたしの恋―
「ね、数学担当、レベル高いね」
周りの女子同様、目を輝かせながら聞く諒子に、呆れ笑いを零しながら答える。
「あれだよ。あたしの隣人」
「えっ……そうなの?! いいじゃん! 啓太くんなんかと別れて狙いなよ」
「……羨ましいなら代わってあげる。ただしボロいし壁抜けるしお風呂も狭いけど」
……そんなに文句ばっかりなら家帰ればいいんだけど。
でもお父さんと顔合わせるのも微妙だし。
っていうか、お父さんはどうせ……、
「あー……絶対無理。大丈夫でしょ、実姫の部屋だってもともときれいじゃないし。
絶対ハウスウイルスとかそういうアレルギー関係大丈夫でしょ? あたしダメだもん。キレイ好きだもん」
「……」
キレイ好き。
その言葉に思い出される矢野の顔に、あたしは苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
一通りの挨拶が終わり、校歌斉唱が告げられる。
大声で歌う体育科と、歌わない普通科。
何気なく目を向けると、あくびをする矢野の姿が映って。
……教師のくせに。
そんな事を考えながら、矢野から移ったあくびをする。
長い長い始業式が終わった。