甘い魔法―先生とあたしの恋―
裏切り
「実姫、寄り道してこ」
帰りのHRが終わった後、後ろから諒子が話しかけてきた。
諒子の言った、寄り道って言葉にあたしは首を傾げる。
「寄り道って、あたし、家すぐそこなんだけど」
「冷たい事言わないの。ちょっと買い物したいから付き合ってよ」
制服を引っ張る諒子に笑いながら、あたしは鞄を机の上に置く。
「何買いたいの?」
「新色のグロスと、ハンドクリームと化粧水と……あと、新しいケータイのパンフが見たいかも」
指を折りながら考える諒子の口からは、次々と欲しいものが並べられて……
「ストップ。……付き合うからストップ」
「あ、本当? さすが実姫」
思わず振り向いて制止したあたしに諒子が笑う。
まだ初日だからか、気付いた時にはもうほとんどの生徒が下校していた。
開いた窓から、春のまだ少し冷たい風が入り込んでいて、カーテンを揺らす。
「いい天気だね」
教室を出る時ぽつりと零すと、諒子が笑顔のまま口を開く。
「だねー。布団干してきて正解だったな」
ルンルンと音符でも見えそうな足取りで歩く諒子に、あたしは微笑んで見せた。
お母さんが出て行ってから、あたしの家もそれなりに大変で。
だから自分の事しか考えられなかったりもした。
けど、少し前に諒子の家の事情を知った。