甘い魔法―先生とあたしの恋―
「俺さ、ずっと教師を目指してたんだ。
同じ施設で育った人が教師なんだけど、すっげぇいい人で。
もう施設出て何十年も経つのに、未だによく手伝いにきてたりしててさ。
一緒に過ごすうちに、その人みたいになりたいって思うようになってたんだ。
……もういい歳のじじぃなんだけどさ」
先生の声の振動が、先生の身体から直接伝わってきて心地いい。
先生が言おうとしている事が、
さっきあたしが言い出した事の返事なのか、それとも違う話なのか。
分からなかったけど、ただ耳を澄まして聞いていた。
先生のきれいに整頓された部屋に、夏独特の強い日差しが差し込む。
レースのカーテンがその強さを和らげて部屋の中へと伝えていた。
「あんなに真剣に頑張ったのは初めてだった。
俺、結構冷めた感じの諦め気味な性格だったし……。
色々あったからあまり望んだりもしないように育ったんだろうけど……教師になりたいって本当にそれ一心で頑張った」
考えてみれば、
先生が自分の過去とか思った事を話してくれた事なんて、今までほとんどなくて。
だからか、先生の一つ一つの言葉が、すごく大切なものに感じた。
先生の言葉に込められた感情を逃さないように、目を閉じて先生の声だけに集中する。
大好きな声が、低音で振動して空気を揺らす。