甘い魔法―先生とあたしの恋―


「教師になって、もうこんなに夢中になるモンなんてないだろうなって思ってた。

俺の人生の中で、一番大事なモンなんだろうなって。

……でも、市川に逢って、一緒に過ごすうちに惹かれていく自分に気付いて……


市川に手を伸ばしたら、必死で手に入れた教職を失うかもしれないのに……。

それを分かってても、止められなかった」


そこまで聞いて、先生の言葉がさっきの返事をしようとしてる事に気付いた。

髪を撫でながら話す先生の言葉が、あたしの耳に届く―――……


「今の俺の目標は、市川の卒業式の後、みんなの前で市川を抱き締める事だな。

今までの反動なのか、欲深くなったみたいでさ。

……両方、失いたくない」


閉じた目に、うっすらと涙が滲む。


先生がどれだけ数学が好きか知ってるから。

その数学と同じくらい想ってくれてる事が嬉しくて……


簡単に、

あたしを守るために教師を辞める、なんて言わない先生が嬉しくて。


両方欲しいって言った先生に、嬉しさから笑みが零れた。


「だから、それを失わないためならどんな努力でもする。

絶対に卒業式に出席して、市川の泣き顔を見るから。


……だからさ、おまえにも協力して欲しい」


我慢した涙のせいで、喉が痛くて声が出ない。

だから、何度も先生の腕の中で頷く。


そんなあたしに気付いて、先生はふっと笑みを零した。





< 433 / 455 >

この作品をシェア

pagetop