甘い魔法―先生とあたしの恋―
放心状態が続くあたしを、諒子が寮まで送ってくれた。
平気だって言ったけど、それがまったく意味をなしてなかった事は自分でも分かってた。
ろくに諒子の目さえ見られないような、そんな状態の強がりは……きっと余計に諒子を心配させた。
「ありがと……」
寮まで着いた時、諒子に小さく笑顔を作った。
自分でもびっくりするくらいの掠れた声が、暗くなり始めた空に消えていく。
あたしの無理矢理作った笑顔に、諒子はぎゅっと唇を噛んで……でも、笑顔を向けた。
「明日ね」
「うん……」
部屋のドアが閉められた途端……瞳から涙が溢れ出す。
堪えていた訳じゃないのに、次から次へと溢れ出す涙が、床を濡らす。
諒子が階段を1段下りる度に響く、ミシミシと木の軋む音。
いつもなら耳障りな音が気にならないくらい、泣き声を殺すのに必死だった。
声が、涙が、喉に詰まって苦しい。
初めて目の前に突きつけられた現実が……ひどく痛く、苦しくて仕方なかった。
浮気の噂なんて何度も聞いてたのに。
それなりの覚悟だってあったのに。
なのに、何がこんなにショックなんだろう……
啓太の事、信じてた訳じゃなかった。
呆れてさえいたし、ちゃんと分かってるつもりだったのに……。
なんで今更ショックなんか……
あたしは……
あんな事されても、まだ啓太が好きだったのかな……