甘い魔法―先生とあたしの恋―
「市川……こないだのゼリーのお礼に一杯ちょうだい」
「……」
何回か食堂で一緒になって気付いたけど……矢野は寝起きが悪い。
ぼーっとしていて、いつもよりも少し甘えたような話し方をする。
『ちょうだい』って……いつもならもっと偉そうな言葉で言うくせに。
なんとなく黙っていると、矢野が少し表情をしかめてあたしを見た。
「なぁ、市川……あ、つぅか昨日、始業式ん時、俺の事無視したろぉ……」
完全に低血圧にやられている矢野の口調に戸惑いながら、仕方なく矢野を見る。
「冷蔵庫に入ってるから勝手にどうぞ」
「……」
せっかく返事をしたのに、矢野はあたしを見たまま止まっていて。
その様子に首を傾げた時、ようやく矢野が立ち上がった。
「……さんきゅ」
少しの間に、まだ寝ぼけてるのかと思いながら、あたしは頭痛薬を口に入れてウーロン茶で流し込む。
そして、半分くらい残した食事を決められた場所に戻した時、矢野に声をかけられた。
「……昨日、なんかあった? 飯来なかったろ」
いつも通りの矢野の口調に振り向くと、そこには真面目な表情を向ける矢野の姿があって……なんとなく目を逸らす。