甘い魔法―先生とあたしの恋―
「アレ、うまいだろ」
「え、ああ……うん。まぁまぁ」
「そこはうまかったって言っとけよ」
苦笑いを浮かべる矢野の周りでは、女子があたしに鋭い視線を向けていて。
そんな状況に、少しムッとしながら口を開いた。
「甘党なんだね、『矢野セン』」
「矢野先生、だろ」
わざと言った『矢野セン』って言葉に矢野は苦笑いを浮かべて、止まっていた足を進める。
それに続くように、女子たちが歩き出す。
「アレってなぁに~?」
「矢野セン、あたしも欲しい」
女子達の舌っ足らずな話し方がやけに耳について、あたしの気分を悪くする。
大体、下心バレバレじゃん。あんなの。
無視すればいいのに。
「実姫、矢野センと話した事あるのか? アレって何?」
矢野の集団の後ろ姿に毒づいていると、不意に和馬に話し掛けれて……あたしは適当な言葉を探す。
「あー……っと、昨日少しだけ話して、で、飴もらっただけ」
心配症の和馬に、矢野がお隣さんだなんて話したら要らない心配までされる事は分かり切ってるから。
そんな理由で和馬に内緒にしてる事は、今までにも結構ある。
男子にも女子にも人気のある和馬に気を掛けてもらえるなんて、それだけで嬉しい事なのかもしれないけど……
どうしても相談する気にはなれなかった。