甘い魔法―先生とあたしの恋―
目の腫れが治まった市川の顔に、少しほっとしながらも俺の中に残った疑問が小さく疼く。
こないだの頬といい、今日の目の腫れといい……。
誰かにいじめられてんのか?
大体、なんで体育科でもねぇのに寮になんか……。
『詮索はなし』
そう決めたのは自分なのに。
数日前から気になっている疑問が、頭ん中をぐるぐる回る。
「まだお母さん帰ってこないんですか?」
その言葉に、市川の表情が強張ったのが分かった。
びくっと小さく揺らした肩。
少しだけ間を開けてから口を開いた市川の表情は、真剣だった。
「……吉岡さん、誰から聞いたの?」
「あ、結構噂になってるの知りませんでした?
なんか先輩の家の近所の人が、お母さんが大荷物持って出て行くの見てたらしくて……中学の子はみんな知ってましたよ?」
……大荷物?
「でもなんで急に出て行っちゃったんですかね。先輩も理由知らないんでしょ?
先輩置いて出て行っちゃうなんてひどいですよね……。
もう、2年になるのに帰ってこないなんて」