甘い魔法―先生とあたしの恋―
だから……寮に?
敵意剥き出しの女子生徒に、市川はしばらく黙って……。
そして、無理矢理作ったような笑顔を向けた。
「吉岡さん、和馬に会いに行くんでしょ? ……昼休み終わっちゃうよ」
「あ、じゃあ先輩これで」
市川に笑顔を向けた女子生徒が、階段に向かってくる。
俺に気付いたその生徒は軽く会釈をして、階段を上り始めた。
こいつ……、わざとあんな言い方したのか……?
階段を上っていく生徒の後ろ姿に眉を潜めてから、もう一度視線を市川に移す。
そこには、もう笑顔を作っている市川の姿があって。
俺の目に、痛々しく映った。
仕事を終えて寮に戻ると、食堂には1人分の食事と、片付けられた市川の食器が残されていた。
20時を回っている時計を見ながら、ネクタイを緩めて冷蔵庫を開ける。
そして気付いた事に、顔をしかめた。
「ペットボトル……終わったんだっけ。……ま、いっか」
独り言を漏らしながら冷蔵庫の中を眺めて……市川のペットボトルを取り出す。
明日言えば大丈夫だろうと判断して、コップについで、テーブルの上の山盛りご飯に軽くため息を落とした。
……こんな食わねぇから。
なんでだかいつも山盛りのご飯に呆れながら箸をつける。
食堂の古いテレビが、最近話題のお笑い番組を映し出す。
途中でチラチラと白い線の入る、半分壊れたようなテレビは、疲れた頭をイライラさせるだけだった。