甘い魔法―先生とあたしの恋―
『……そっか』
あたしが話し終わった後、矢野はしばらく黙ってからそれだけ言った。
『別に気にしたりしないでね? っていうか、気を使われたりしても迷惑だし』
『あー……俺、気使うとかってできねぇ体質だし』
『……だよね。じゃなきゃ初対面で部屋キレイにしろとか言わないもんね』
『や、それは社会人として当然だろ。気使うとかじゃなくて、モラルの問題だし。教育だよ、生活指導の一貫』
重たい話しちゃっただけに、その後の空気とかが心配だったけど、どうやらそれはあたしのとり越し苦労だったみたいで。
いつも通りの矢野の態度に、ほっとした。
だけど。
『……いたらいたで色々大変なんだな』
『え……?』
矢野が急に放った言葉を上手く聞き取れなくて首を傾げた。
表情を崩したあたしに、矢野はにこっと笑って……。
『冷蔵庫に入ってた市川のウーロン茶のペット、さっき飲んだら終わった』
『は……っ?!』
『明日にでも買ってきてやるから。な』
これでもかってほどの笑顔で言い切られちゃって、結局反論も何もできずに終わっちゃったけど。
反論……しようと思えば出来た。
けど、昨日はあえてしなかった。
……素直に話しすぎた事情が、少しだけ恥ずかしくて。
いつもみたいに茶化さないで、真面目に聞いてくれた矢野が……嬉しくて。
ウーロン茶の事くらいで、文句が言えなかった。