甘い魔法―先生とあたしの恋―
また1ヵ月は帰ってこないだろうから、忘れ物がないかと見渡しただけだったけど……ベッドの上にテディベアが1つ落ちてる事に気付いて、元の定位置に戻そうと手に取る。
出窓の広めの枠の上が、テディベアの置き場だった。
誕生日にお父さんが決まってくれていたテディベアは、お母さんが出て行くまで毎年続けられていた。
14個のテディベアは、置き場に困ってたし、これ以上増えたって仕方ないとさえ思った時期もあった。
だけど……もうこれ以上増える事がないんだと思うと、テディベアを見る度にどうしょうもなく寂しくなる。
テディベアがもらえない事が、じゃなくて。
お父さんに、誕生日を祝ってもらえなくなった事が……。
もう高2なのに。
それでも、少しだけ寂しかった。
「……一緒に行く?」
手に持ったテディベアが、心なしか寂しそうな瞳を向けているような気がして……そのまま鞄に入れた。
「最後にもらったやつだっけ……」
独り言を呟きながら、静かに部屋のドアを閉めた。
寮の暮らしにはもう慣れたし、矢野は何かと話し掛けてくるから、特別寂しさを感じた事なんてなかった。
家の事だってそんなに考えもしなかった。
……なのに。
封筒に書かれたお父さんの字を見た瞬間、
部屋のテディベアを見た瞬間、
静かな寂しさが身体の中を広がっていく事に気付いた。
ここ2年なんて、ほとんど一人暮らしみたいなものだったのに。
それでも、誰もいなくても……。
生まれた時からの思い出の詰まった家は優しくて暖かくて……。
寮に戻るあたしの足取りを重くした。