甘い魔法―先生とあたしの恋―
ピーーーッ!!
お腹の痛みに耐えながらそんな事を心の中で思っていると、軽快な笛の音が響いた。
「男子はグランド5周! 女子は3周! 終わったものから休んでいいからな!
あと、今日は新任の先生達も一緒に走るから」
その言葉に、今まで無関心だったハズの女子が周りを見渡して騒ぎ出す。
生理痛のせいで機嫌の悪いあたしには少し耳障りな黄色い声に、ゆっくりとみんなの視線を追うと……。
ジャージ姿の数人の先生がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
その中に、他の先生よりも少し背の高い矢野もいて……あたしも他の女子同様にその姿を視線で追う。
他の先生達と苦笑いを浮かべながらストレッチをする矢野は、明らかに浮いていた。
浮いてるっていうか……なんだ、アレ。
……休日のホスト?
主婦に大人気のインストラクターのお兄ちゃん?
そんな姿から自分の足元に視線を落とした瞬間、目の前がくらくらして……顔をしかめる。
「実姫、貧血で倒れるとかよしてよー?」
「あー……うん。そしたらお姫様抱っこして保健室まで……」
「絶対無理。ってか、力的には出来たとしても、そんな力強い一面をここでさらしたくない」
「友達を助ける優しい子だって好印象かもよ?」
「その前に馬鹿力で有名になるし。っていうか、実姫になんかあったら和馬くんがきっと名乗り出るって。
俺が連れて行きます! って」
「……本当お人よしだよね」
諒子とそんな会話をしながらも、周りの女子の間では矢野の名前ばかりが上がっていて。
体調が悪いせいか、そんな声がやけに耳障りに感じた。