甘い魔法―先生とあたしの恋―


ピーーーッ!!


笛の音で生徒達が一斉に走り出す。

団子状態なのは最初の200メートルまで。

その後は、速やかに運動部に入っている生徒とそれ以外の生徒で真っ二つ。


中学のバスケ部だった経験が生かされてか、大きな2つの集団の1つ目を走っていたあたしだったけど……次第に増してきたお腹の痛みに、視線を落とす。


「実姫、顔色悪くないか?」

「全然大丈夫」


話し掛けてきた和馬に、出来る限りの笑顔を作って即答を返した。

それでも少し疑問を浮かべている和馬になんか、本当の事なんて絶対に言えない。

……本当に心配症。


そんな和馬を先に行かせて、痛みに耐えながらも2周を終えた時。

痛みを超えて気持ち悪くなってきた身体に……あたしはゆっくりとしゃがみこんだ。


「実姫?!」


後ろから走ってきた諒子が駆け寄ってきて、あたしの背中に手を添える。


貧血のような症状に腹痛。

気が遠のきそうな状態におでこに片手を当てていると、体育の先生が走り寄ってきた。


「どうした?」

「あ、生理痛で朝からずっと調子が悪かったんです」


答えられないあたしの代わりに、諒子が説明をする。

他の生徒が追い抜き様に送ってくる視線も気にならないほどの症状に、両手を地面について、それを見つめていると……先生が呆れ顔でため息を吐いた。


「おまえなぁ……生理は病気じゃないんだから走るくらいできるだろ。

後1周走ったら好きなだけ休んでいいんだからとりあえず走れ」


……頑固オヤジ。

悔しさに歯をきゅっと食いしばりながら、ふらつく身体を起き上がらせようと腕に力を入れた時。


視界に誰かの運動靴が飛び込んできた。



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