甘い魔法―先生とあたしの恋―


学校規定の体操服ではないジャージに、あたしはゆっくりと顔を上げた。


「生理痛、男には分かりませんからね」


話し掛けてきた矢野に、先生が視線を移す。


「今の生徒は大袈裟なんだよなぁ。

何かあるとすぐに生理痛、生理痛って。まったく小ずるいよな」


バカにしたように笑う先生が頭にきて、何が何でももう1周走ってやろうと立ち上がろうとした時、矢野が口を開いた。


「でも本当につらい子はつらいらしいですから、一概には言えないんじゃないですか?

本当に無理させて何かあったら問題にされるかもしれませんし……。

今結構、教師の指導力や監督責任が問われてますし」

「まぁな。それも一理あるな。……最近保護者もうるさいしな」


いつもあたしと話す時とは違って、少し強めの口調で話す矢野に違和感を感じて横顔を眺めていると、不意に矢野と目が合って。

矢野は小さく笑顔を作った後、視線を先生へと移した。


「それに、嘘つくなら初めからそうしませんか? 2周以上走ってからなんて面倒くさい真似しないでしょ」

「……それもそうだな。まぁ、矢野先生に免じて今回は許してやるか。市川、保健室行ってこい」

「は……」

「実姫、俺が連れってってやるよ」


あたしが返事をするよりも先に言葉を割り込ませたのは……予想通り、和馬だった。


「さっすが彼氏!」

「和馬やっさしー!」


待っていたようなタイミングで名乗り出た和馬に驚いているあたしの横を、和馬の友達がそんな言葉を発しながら走り抜けていく。



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