甘い魔法―先生とあたしの恋―


体育とか選択教科は2クラス合同でするから、クラスは違っても、和馬と一緒になる事はなにかと多くて。

何かある度に過敏に心配する和馬のせいで、あたし達の仲を誤解している生徒も少なくなかった。


「ほら、実姫」

「や……大丈夫だか……っ?!」


担ぐ気満々の和馬に苦笑いを浮かべながら首を振ろうとした瞬間。

身体がゆっくりと浮き上がるのが分かった。


気付くと、矢野に腕に抱き上げられていて……、慌てて口を開く。


「ちょっ……矢野! 下ろして!!」


暴れ出したあたしに、矢野が迷惑そうに表情をしかめる。


「なんでだよ。お姫様抱っこなんて女なら誰でも憧れてんだろ? 大人しくしとけ。

つぅか、『先生』って呼べ」

「っていうか、怖いからっ!」


たった2ヵ所のみで支えられてるこの体勢は、かなり不安定に思えて……。

しかも矢野が歩く度に、振動が伝わってきてものすごく心臓に悪い。


必死に抵抗するあたしに、矢野はふっと笑みを零して、ゆっくりとあたしを下ろしてからその前にしゃがんだ。


「じゃあこっちな」


言われた言葉の意味を理解して、少し戸惑ったけど……顔に血が集まるのを感じながら、矢野の背中に抱きついた。


「怖いって、高所恐怖症?」


矢野の声がすぐ近くから聞こえてきて……恥ずかしさから困惑する。





< 86 / 455 >

この作品をシェア

pagetop