甘い魔法―先生とあたしの恋―


「ううん。……お姫様抱っこってされる方も楽じゃないみたい。

しがみついてないと落とされそうですごい怖い」

「落とさねぇよ。信用ねぇな、俺」

「それより、なんで走らされてるの?」

「あー……なんか授業ないなら若いんだから走れとかってかなり強引に誘われて……。

まぁ、大人の付き合いってやつ?」

「……ずいぶん爽やかな大人の付き合いだね」


矢野が歩く度に、心地いい振動が身体を通して伝わってくる。

それと一緒に鼻をかすめて行く香水の香り。


柔らかそうにふわふわ揺れる矢野の髪を、無性にくしゃくしゃにしてやりたくなる衝動に駆られるも……、

突き刺さるような視線が、後ろの女子から送られてきている事に気づいて、苦笑いを零す。


「超見られてるし……」

「しょうがねぇだろ、病人なんだから。んな事気にすんな」



『生理は病気じゃない』

体育の先生の言葉が蘇る。


『病人』

そう言ってくれた事がなんだか少しだけ嬉しくて……安心した。


細いくせに広い背中。

あたしを軽々と支えてくれている腕。


こんなに近い矢野は初めてで……伝わってくる体温や感触が恥ずかしくて、目を閉じた。


昔……、

ずっと昔、今みたいにお父さんにおんぶされた事が、静かにあたしの頭に思い出されていた。




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