甘い魔法―先生とあたしの恋―
【矢野SIDE】
最初は身体に力を入れて肩にしがみついていた市川が、ようやく安心したのか、俺の背中に顔を付ける。
やけに静かな市川が可笑しくなりつつも……それと同時に、可愛いと思う気持ちが、からかおうとする言葉を止めた。
いつも強がってばかりの市川がこんなにも大人しく俺におぶされてると、なんかすげぇ変な感じ。
「つぅか、そんなにつらいんなら学校休めよ。朝から調子悪かったんだろ? 朝言えば俺が担任に伝えといてやったのに。
寮でゆっくりしてればよかったのに……あ、意外と寂しがり屋?」
一瞬可愛いと思ってしまった気持ちを誤魔化すように、市川をからかってみる。
自分でも無意識に沸いてきた変な感情に焦って出した言葉だったけど……。
市川の返答はいつもみたいな強がりじゃなかった。
「……あんまり学校休んで親に連絡されると嫌だから」
「でもおまえ全然休んでねぇじゃん。普通無断欠席とかじゃない限りはされねぇだろ」
「でも、あたしは寮だから……自分の意志で休んだりしたら、親に連絡されるかもしれないじゃん」
「あー……まぁ、そりゃそうか」
「うん……迷惑かけちゃダメだから」
ぽつりと零された最後の言葉。
聞き逃すことも出来た。
けど……あまりにか細い声に、思わず言葉を続ける。