甘い魔法―先生とあたしの恋―
ドアを開けると、中は想像通りだった。
入ってすぐ右にトイレとお風呂、洗面台。
目の前には8畳ほどの部屋。
……一応フローリングではあるけど、やっぱり古い。
「……まぁ、いいや」
もうどうでもいいや。そんな思いに、半ばやけになりながら荷物の整理を始める。
荷物のほとんどを占める服に、部屋の中を見渡すと……部屋の左側がクローゼットになっている事に気づいた。
少し気分が明るくなりながら、クローゼットに手を掛ける。
ギィ……とか鳴っちゃうのはもうこの際いいとして。
押し入れみたいに2段に分かれた中は、少しだけ埃っぽい。
……まぁ、いっか。
とりあえず、鞄の中の服を整理しようと……したんだけど、そのあまりの量にやる気が削ぎ取られる。
『あと一つ、絶対守って欲しい事があるからよく聞けよ?』
あの後、矢野に言われた言葉が頭に浮かぶ。
『ここ、少しでも不具合が出たら取り壊す予定なんだ。
本当はもう取り壊す予定だったのを、俺が頼み込んで住んでる状況。
だからどこも壊すなよ?
ここ追い出されたら俺やばいし。第一、おまえも困るだろ?』