甘い魔法―先生とあたしの恋―
「俺ー……だって腹減っちゃって」
「4時間目だしなー。俺も学生ん時はよく鳴らしてたけど。でももう少し我慢しとけ」
「えー……無理っす。限界」
「無理っす。じゃねぇよ。つぅか、俺に言われても無理だし」
黒板の上に掛けてある時計を見上げながら頭を掻く矢野に、教卓前の席に座る女子生徒が大きな声を上げた。
「えっえ、……矢野セン、何その指輪!! え、彼女いるの?!」
その声に、生徒の視線が矢野の指に集まる。
廊下側のあたしの席からは少し見づらいけど……矢野の左手の薬指に、確かに指輪が光ってた。
「えー……本当! なに、それ!!」
「矢野セン、いつ彼女できたの?!」
次々と飛ぶ声に、あたしもぼーっと矢野の指輪を眺めてると、後ろの諒子が身を乗り出してきた。
「あれ、ティファニーだよ。彼女可愛い系なのかな?」
「へー、ティファニー……高いの?」
「そこそこじゃない? 2万、とか?」
「へー……」
諒子の情報の多さに感心しながら、もう一度矢野の指輪を眺める。
2万……1ヵ月分の家賃か。
給料少ないって文句言ってたのに彼女には優しいんだ。
……なんか想像できないけど。
でも……付き合ってるなら、大切な人になら、それが普通だよね。
……あたしと啓太がおかしいんだよね。